2025.04.28
【研究成果】
免疫応答遺伝子の発現量を調節する長鎖ノンコーディングRNAの発見
谷准教授らが免疫応答遺伝子の発現量を調節する長鎖ノンコーディングRNAの発見について学術誌『Biochemical and Biophysical Research Communications』に発表しました。
発表のポイント
・長鎖ノンコーディングRNAであるIDI2-AS1のノックダウンにより、免疫に関わるインターロイキン5(IL5)の発現が約60倍に増加した。
・IL5のタンパク質レベルも約70倍に増加し、mRNAとタンパク質の両方で顕著な上昇が確認された。
・IDI2-AS1は通常状態でIL5の発現を抑制する役割を果たしていることが示唆された。
・細菌やウイルス感染を模倣したLPSやpoly I:C処理によりIDI2-AS1の発現が低下し、それに伴いIL5の発現が急速に増加することが明らかになった。
・IDI2-AS1とIL5の新たな制御軸の発見は、免疫関連疾患の新しい治療標的となる可能性がある。
発表概要
 本研究では、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)であるIDI2-AS1の機能を解明するため、siRNAを用いたノックダウン実験を行いました。その結果、IDI2-AS1の発現を抑制すると、13種類の免疫応答関連遺伝子の中で、特にインターロイキン5(IL5)の発現が顕著に上昇することを発見しました。
 具体的には、IDI2-AS1をノックダウンすると、IL5のmRNA発現レベルが約60倍から80倍に増加しました。さらに、ELISAによるタンパク質定量では、IL5のタンパク質レベルも約70倍に増加していることが確認されました。これらの結果は、IDI2-AS1がIL5の発現を特異的に制御していることを示しています。
 また、過去の研究から、リポ多糖(LPS)やpoly I:Cで細胞を処理すると、IDI2-AS1の発現が低下することが分かっています。これらの処理は細菌やウイルス感染を模倣するものです。今回の発見と合わせて考えると、通常状態ではIDI2-AS1がIL5の発現を抑制していますが、感染時にはIDI2-AS1の発現が低下することでIL5の発現が急速に増加するという制御メカニズムの存在が示唆されます。
 IL5は主にT helper 2(Th2)細胞から産生されるサイトカインで、好酸球の分化や増殖を促進し、アレルギー性炎症において重要な役割を果たします。したがって、IDI2-AS1とIL5の新たに発見された制御軸は、アレルギー疾患や炎症性疾患の病態メカニズムの理解を深め、新しい治療法の開発につながる可能性があります。
 今後の研究では、IDI2-AS1がIL5の発現を制御するメカニズムの詳細な解明や、実際の感染症モデルでのIDI2-AS1の役割の検証が必要です。また、IDI2-AS1を標的とした治療法の開発が期待されます。
概略図
論文情報
[掲載ジャーナル] Biochemical and Biophysical Research Communications
[論文名]Long noncoding RNA IDI2-AS1 modulates the expression of interleukin 5 in human cells
[著者]Endo R, Kurisu M, Tani H
[巻号・頁]761, 151733, 2025
[DOI]doi.org/10.1016/j.bbrc.2025.151733
[PMID]40179741
[URL]https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006291X25004474
お問合せ先
《この研究に関すること》
発表者:谷 英典(准教授)
所 属:横浜薬科大学 生体防御学研究室
Email:hidenori.tani@yok.hamayaku.ac.jp
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