2025.03.22
【研究成果】
ウイルス感染における免疫反応に関与する長鎖ノンコーディングRNAの発見
谷准教授らがウイルス感染における免疫反応に関与する長鎖ノンコーディングRNAの発見について学術誌『Biological and Pharmaceutical Bulletin』に発表しました。
発表のポイント
・長鎖ノンコーディングRNAはタンパク質に翻訳されないRNAであり、その機能は大部分が謎に包まれている。
・ヒト肺がん細胞にウイルス感染を模擬したpoly I:C刺激を加えた結果、長鎖ノンコーディングRNAであるIDI2-AS1の発現が低下し、OIP5-AS1とLITATS1の発現が増加することを発見した。
・長鎖ノンコーディングRNAは、ウイルス感染に対する免疫反応に関与している。
・発見した長鎖ノンコーディングRNAはすべて細胞内での寿命が短く、この短寿命の長鎖ノンコーディングRNAは細胞ストレスやウイルス感染に対する指標として役立つ可能性が高い。
・将来の研究として、実際のウイルス感染における長鎖ノンコーディングRNAの役割やメカニズムの解明が必要である。
発表概要
 本研究は、長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)がウイルス感染に対する免疫反応にどのように関与しているかを調査することを目的としています。lncRNAは、タンパク質をコードしないにもかかわらず、細胞内での遺伝子発現調節やエピジェネティック制御など、多様な生物学的機能を果たします。特に、ウイルス感染がlncRNAの発現に与える影響については、まだ多くのことが不明です。
 本研究では、poly I:Cを用いてウイルス感染を模擬し、A549細胞(ヒト肺がん細胞)でのlncRNAの発現変化を調査しました。結果として、IDI2-AS1の発現は低下し、OIP5-AS1とLITATS1の発現は増加しました。これらの変化は、poly I:Cの濃度に応じて依存的に発生しました。さらに、これらのlncRNAはすべて短寿命(細胞内半減期が4時間未満)でした。
 これまでの研究報告から、OIP5-AS1は、胚性幹細胞での細胞増殖を維持する役割があり、また、多くの細胞内RNAやマイクロRNAの活性を負に調節することが示されています。一方、LITATS1は、TGF-βシグナルを抑制し、がん細胞の形態変化を阻害することが報告されています。IDI2-AS1については、まだ具体的な機能が明らかになっていませんが、免疫反応に関与している可能性があります。
 poly I:Cは、TLR3シグナル伝達を誘発し、免疫反応を活性化します。このプロセスでは、インターフェロンやその他のサイトカインがlncRNAの発現を調節する役割を果たす可能性があります。さらに、RIG-I様受容体もウイルス感染に対する免疫反応に関与しており、lncRNAがこれらのシグナル伝達経路を調節する可能性があります。
 本研究の成果は、lncRNAがウイルス感染に対する免疫反応に重要な役割を果たすことを証明しました。今後は、実際のウイルス感染におけるlncRNAの具体的なメカニズムや役割について研究を進め、将来的には、lncRNAをターゲットとした新たな治療法の開発が期待されます。
概略図
論文情報
[掲載ジャーナル] Biological and Pharmaceutical Bulletin
[論文名]Exploring IDI2-AS1, OIP5-AS1, and LITATS1: Changes in Long Non-coding RNAs Induced by the Poly I:C Stimulation
[著者]Yagi Y, Abe R, Tani H
[巻号・頁]Vol. 47 (6), 1144-1147, 2024
[DOI]doi.org/10.1248/bpb.b24-00037
[PMID]38866523
[URL]https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/47/6/47_b24-00037/_article
お問合せ先
《この研究に関すること》
発表者:谷 英典(准教授)
所 属:横浜薬科大学 生体防御学研究室
Email:hidenori.tani@yok.hamayaku.ac.jp
谷 英典のプロフィールは<こちら
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