横浜薬科大学
2025.03.01
【研究成果】
若年期のエストロゲンの情動調節機構
出雲教授らが若年期のエストロゲンの情動調節機構について学術誌『European Journal of Neuroscience』に発表しました。
発表のポイント
・RNA治療薬は、1970年代後半の誕生以来、驚異的な進化を遂げ、従来治療が困難だった疾患に対する新たな治療法を提供している。
・女性ホルモンであるエストロゲンは脳の発達に重要な働きを示すが、エストロゲン受容体の1つであるGタンパク質共役型エストロゲン受容体(GPR30)の関与は不明であった。
・若年期の卵巣摘出術(OVX)によるエストロゲン低下は自発運動量の低下と社会的認知行動の変化を誘発する。
・GPR30の刺激薬であるG-1の投与により、OVXによる自発運動量低下と社会的認知行動の変化は回復する。
・若年期のOVXは扁桃体におけるセロトニン遊離量の増加を誘発し、GPR30の刺激薬投与により抑制される。
・若年期のエストロゲンはGPR30のシグナル経路を介してセロトニン遊離を抑制し、社会的認知行動を調節する。
発表概要
 女性の生涯におけるエストロゲンレベルの変動は、脳に影響することにより、発達障害や精神疾患の原因の1つとして知られています。閉経期においては、エストロゲンレベルの低下がセロトニン神経系に影響を及ぼし、うつ様症状や不安症状を誘発することが知られていますが、若年期におけるエストロゲンの脳の制御については明らかになっていません。また、エストロゲン受容体にはエストロゲン受容体(ER)α、βとGタンパク質共役型エストロゲン受容体(GPR30)が存在するが、GPR30のセロトニン神経系への関与については分かっていません。
 本研究では若年期の卵巣摘出(OVX)モデルマウスを用いて行動解析とマイクロダイアリシス法を用い脳内のセロトニン遊離量の解析を行いました。その結果、OVXによるエストロゲンの低下は、活動期における自発運動量の低下と3-チャンバーテストにおける新奇マウスへの嗜好性の増加を誘発しました。また、GPR30刺激薬のG-1の投与はこれらの行動変化を回復させ、自発的な運動の活性化と社会認知行動の調節にGPR30を介したシグナルが関与することが明らかとなりました。さらに、扁桃体におけるセロトニン遊離量を解析した結果、OVXによりセロトニン遊離量の増加が誘発され、G-1投与はその増加を抑制しました。これらの結果は、エストロゲンがGPR30を介してセロトニン神経系を調節することにより、若年期の活動レベルと社会認知行動を調整していることを示しています。
 本研究の結果は、小児期の脳におけるエストロゲンの役割をより明確にし、結果として、小児の精神疾患や発達障害の治療法の開発に向けた新たな道を切り開くことが期待されます。
概略図
論文情報
[掲載ジャーナル]European Journal of Neuroscience
[論文名]Behavioural changes in young ovariectomized mice via GPR30-dependent serotonergic nervous system.
[著者]Furukawa M; Izumo N; Aoki R; Nagashima D; Ishibashi Y; Matsuzaki H
[巻号・頁]60 (7), pp. 5658-5670, 2024
[DOI/PMID]10.1111/ejn.16516
[PMID]39189108
[URL]https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ejn.16516
お問合せ先
《この研究に関すること》
発表者:出雲 信夫(教授)
所 属:横浜薬科大学 薬物治療学研究室
Email: n.izumo@hamayaku.ac.jp
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